お知らせ

LINEオープンチャットを利用した新しい「認知症SOSネットワーク模擬訓練」を提案

「松川デジ活プロジェクト」(年間2単位の自主学修プログラム 担当教員 高際 均)では、福島市松川地域包括支援センターと松川町石合町内会と連携して、LINEオープンチャットを使った新しい認知症SOSネットワーク模擬訓練を提案し、実施しました。
そこに至る準備段階から訓練当日の様子、今後の展開をご紹介します。

認知症行方不明捜索の課題

警察庁の発表によると、令和6年の全国の認知症による行方不明死亡者数は491人で、行方不明当日または翌日など不明直後に亡くなるケースが多いとされ、死亡者の約8割が、不明場所から5km圏内で亡くなっています。1)
このため、死亡者数減少には早期の捜索開始と近隣での捜索が重要であると考えられます。
行方不明捜索に関しては、例えば衣服所持品などにQRコードをつけて本人確認する方法など、様々な捜索ツールが効果を挙げているところです。
「多くの捜索ツールは捜索開始後に役立つものだが、私たちは捜索開始前の時間短縮を図ることで、地域での早期捜索開始を目指した」(高際 均 特任教授)として、行方不明第一報を110番通報に代わりLINEオープンチャットで行う実験を提案しました。
通常は、行方不明第一報は110番通報で警察になされるケースが想定されるところですが、受理した警察は自ら捜索開始するとともに、自治体や地域包括支援センターなど地域の関係者に情報提供を行い、地域ぐるみの捜索が開始されます。
しかし、警察が書類を作成して、メールやFAX、電話などで地域の関係者に展開するには一定の時間を要します。
そこで行方不明第一報を110番通報に代わりLINEオープンチャットに投稿することで、そこに登録している警察、自治体、福祉関係者、町内会などに一斉同報で情報提供すれば、地域での捜索開始までのタイムラグがなくなるのではないかと考えました。
 1) 警察庁編(令和76)「令和6年における行方不明者届受理等の状況」から

訓練に至る準備

既にLINEグループなどで地域のネットワークを築いている松川町石合町内会役員の皆様と松川地域包括支援センターと松川デジ活プロジェクトで相談を重ね、専用のLINEオープンチャット「石合町内会捜索用」を開設しました。
町内会で情報展開いただき、訓練当日には56名の登録者がありました。(学生など関係者も含む。石合町内会は390世帯(令和5年度、同町内会HPから引用)ほどなので、約1割強程度の世帯が参加いただけたことになります)
LINEグループではなく、LINEオープンチャットを選んだ理由は、LINEオープンチャットは自らのLINEアカウントを提示せずに参加できるため、訓練参加への障壁が下がると考えたためです。
また、LINEは汎用SNSとして多くの人が利用しているアプリであり2)、インストールや操作方法説明の手間が少ないこと、無償で利用できる点を考慮しました。
 2) 月間アクティブユーザー数9,800万人 (LINEヤフー社発表)

訓練当日

〇日時 2025.10.26 9:3011:30
〇場所 福島市松川町石合町内会集会所
〇主催 松川地域安心・安全ネットワーク委員会 
〇参加者 30名程度の住民、松川デジ活プロジェクト、鈴木典夫ゼミ(福島大学)、その他関係者
当日は雨天で、急遽集会所の室内で訓練を実施しました。
LINEオープンチャット「石合町内会捜索用」上に行方不明第一報が投稿され、石津一明町内会長が捜索班を編成し、捜索が開始されました。室内ではありましたが、当初の想定どおり「踏切付近」「神社付近」を捜索するという想定で行いました。
捜索過程も「石合町内会捜索用」上に逐次展開され、参加者全員に情報共有できました。
そして行方不明者の発見投稿があり、町内会長が確認して「石合町内会捜索用」上で捜索の終了を宣言、訓練は終了しました。
行方不明者への声掛けは、声掛け役と行方不明者役の住民の方が実施しました。

訓練の成果

行方不明第一報から捜索班を編成し捜索開始まで20分程度でした。あくまで訓練上の数値ではありますが、実際の行方不明発生から地域での捜索開始と比較して大幅に時間短縮が図られることがわかりました。
参加した住民からも、「捜索の現状がリアルタイムにスマホ上でわかってよかった。すごいことだと思った」などの感想が寄せられました。また「災害関係でも利用できる仕組みではないか」との声もありました。

行方不明者の声掛けの様子.JPG訓練当日の様子.JPG

今後の展開

LINEオープンチャット「石合町内会捜索用」は住民の皆様との意見交換でできた仕組みでもあるので、地域コミュニティの維持発展に資する形で活用することも提案していきます。例えば行方不明だけではなく、災害関係や地域のイベント運営での利用など、地域のコミュニケーションツールの一つとして活用する方法もあると思われます。
また、他の町内会にも広げ実験を継続していきます。
この提案を実現することで行方不明による死亡者数減少につながる可能性もあると考えますが、社会実装には課題もあります。それらについても引き続き検証しながらより良い提案につなげてまいります。
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